最高裁判所第三小法廷 平成5年(行ツ)180号 判決 1994年4月19日
上告人
シャープ株式会社
右代表者代表取締役
辻晴雄
右訴訟代理人弁護士
中島和雄
同弁理士
川口義雄
船山武
被上告人
特許庁長官
麻生渡
主文
本件上告を却下する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
職権をもって、本件上告の適法性について判断する。
一 上告人は、本件特許出願につき拒絶査定を受け、これを不服として審判を請求したが、審判の請求は成り立たない旨の本件審決を受けたので、さらに本件審決の取消しを求めて本訴を提起した。
記録によれば、原審は、平成五年八月十六日、本件審決を正当として、上告人の請求を棄却する判決を言い渡したところ、上告人は、右判決言渡し後の同年九月一日に本件特許出願を取り下げ、自ら訴えの利益を失ったことを理由として、訴えの却下を求めて本件上告に及んだものである。
二 ところで、特許出願の拒絶査定を是認する審決に対し取消訴訟が提起され、その係属中に特許出願の取下げがされると、その審決で審判の対象となった特許出願自体が初めから存在しなかったことになるのであるから、特許出願人は、右審決の取消しを求めるにつき法律上の利益を失うに至るものである。上告人は、前示のとおり、原判決の言渡し後に特許出願を取り下げることにより、自らこのような状態を現出させた上で、訴えの利益を失ったことを理由として、原判決を破棄して訴えを却下することを求めて本件上告をしたものであるが、このような上告は上訴制度の本来予定しないところであって、本件上告は、上訴権の濫用に当たるものとして不適法であり、その欠缺を補正することができないものというべきである。
よって、行政事件訴訟法七条、民訴法三九九条ノ三、三九九条一項一号、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官千種秀夫 裁判官園部逸夫 裁判官可部恒雄 裁判官大野正男 裁判官尾崎行信)
別紙特許願取下書<省略>
上告代理人中島和雄、同川口義雄、同船山武の上告理由
原判決には、本案につき判断をすべきでないのに、これをした違法がある。
一 本件は昭和五五年特許願第八五六九五号特許出願の拒絶査定不服審判事件の審決に対する取消請求訴訟についての上告事件である。
二 ところで、右特許出願は、平成五年八月三〇日に取り下げられた(添付第一号証)。右取下により右特許出願は初めからなかったものとなり、従って、前記審決は、右出願取下により、その効力を失った。
三 そうすると、原審である審決取消訴訟は、既に効力を失った審決に対する審決取消訴訟となり、訴えの利益を欠くものとなる。
四 したがって、本件訴えは不適法として却下すべきところ、原判決は、前記審決について取消事由の有無の本案に立ち入って判断しているものである。
五 依って、法律上の利益を欠くにも拘わらず、これを適法として本案につき判断した原判決は、本件と同種事案である御庁平成二年(行ツ)二一号事件についての平成三年三月二八日小法廷判決におけると同様これを違法として破棄せられ上告人の本件訴えを却下するとの自判がなされるべきである。